インスリン分泌がゼロになる1型糖尿病の人や、糖尿病が進行し、すい臓でインスリンが十分に分泌できない人に行われるのが「インスリン療法」です。
生きていくために必要なエネルギーが作れない、足りないため、外部から注射で補います。
タンパク質の一種であるインスリンは、口から入れても胃や腸で消化されてしまい、十分に作用しません。
そのため、血液中に直接入るよう皮下注射によって行います。
目次
判断の手順
インスリン療法を行うかどうかの判断は、
- 1型糖尿病
→診断された時点で確定。 - 2型糖尿病
→糖尿病の状態で判断(食事&運動療法で血糖コントロールが改善されない、一刻も早く血糖値を下げたい)
→ 経口血糖降下薬導入
→ 飲み薬では効果が思わしくない
→ 導入2型糖尿病の人の場合は、病状によって異なります。
インスリン注射を行っている人は、1型糖尿病の人も含めると100万人いるとも言われています。
インスリン療法が必要となる人
- 1型糖尿病の人
- 著しい高血糖の場合やケトアシドーシス、昏睡に陥っている人
- 経口血糖降下薬を使っても効果が思わしくない人
- 出産を控えて高血糖の人
- 妊娠糖尿病の人
- 手術を控えて高血糖である人(中等度以上の外科手術の場合)
- 手術ですい臓を摘出した人
- 重症の感染症があり、血糖コントロールが乱れている人
- 重症の肝臓障害や腎臓障害の人 など
いずれも、インスリン療法以外の方法で血糖コントロールを改善・維持することはできません。
インスリン注射を中止できる場合もある?
すい臓からのインスリン分泌が不足している限りは行わなければなりません。
しかし、インスリンの分泌が増えたり、インスリン抵抗性が弱まったりした場合は飲み薬による治療に戻ることも可能です。
主な例として、
- 肥満が解消され、インスリン感受性が向上した場合
- 妊娠時の高血糖が出産後に改善された場合
- 食後高血糖に飲み薬でも対応できると判断された場合
などです。
注射の方法
注射というと、小ビンに入った注射薬を注射器に吸い込んで打つのを想像される人もいるかもしれません。
もちろんそのようなタイプもありますが、今は「これが注射器?」と思えるものがたくさん使われるようになりました。
よく使われるのは、携帯に便利なペン型です。
種類としては、
- カートリッジ式・・・インスリンの入ったカートリッジを取り替えて使うタイプ
- プレフィルド式・・・カートリッジと注入器が一体化したタイプ
があります。
鞄に入れていても違和感がありません。
そして心配、不安なのが痛み。
現在の注射針はとても細く、痛みもできるだけ感じないように改良されています。
※注射器による方法以外にも、インスリンポンプという装置から腹部など皮下にカテーテルを通し、持続的にインスリンの供給を行う「インスリンポンプ療法」もあります。
注射に適した部位
インスリン注射は皮下注射となります。
状態によって1日数回行わなければならず、その度に医療機関を訪れるのは無理です。そのため患者さん自身で行うことになります。
注射というと、一般的には上腕です。
インスリン注射の場合も上腕外側も対象になりますが、他に腹壁、大腿部、お尻も適しています。
ただし、お尻はしづらい場所なので、大抵それ以外の3ヶ所が注射部位になります。
- 腹部:薬の吸収速度が最も早い
へそ周り半径3cmのところは避ける - 上腕部:薬の吸収速度は2番目
上腕の外側4分の1のところ - 大腿部:薬の吸収速度は3番目
膝より上部の外側
腹部を選択される方が一番多いです。
注射の流れ
- 製剤の種類と単位を確認する。
- 上下に振るなどしてインスリンを均一な濁液にする。
- カートリッジ先端のゴム栓を消毒し針を注射針をつりつける。
- 針先を上に向け、空気を抜きながら空打ちし、薬が出ることを確認する。
- 注射部位の消毒し、片手で皮膚をつまみ、もう片方の手で注射器を持って注射位置に針をまっすぐ根元まで刺す。
- 血液が逆流していないことを確かめてから、注入ボタンを押す。
- 注入ボタンを押したまま6秒以上たってから針を抜く。
- 製剤が逆流したり、出血しないように、針を打ったところを消毒綿で軽く圧迫する。
- 打ち終わったら針ケースをかぶせて注射器から針をはずす。
注意ポイントとしては、同じ部位に繰り返し打つと、皮膚が萎縮したり、肥大することがあります。
皮膚にしこりができたところに打っても、薬がよく効きません。
1回ごとに2cm以上あけて注射するようにしましょう。
保管と廃棄について
製剤の保管と廃棄の注意ポイントです。
保管
- 直射日光の当たらない涼しい場所に保管する。
- 開封したものは使用期限内に使用する。
- 凍らせない(一度でも凍結したものは使用できません)。
- 高温の場所や直射日光の当たる場所に置かない。
- 子どもの手の届かないところに置く。
廃棄
- インスリン注入器用の針は家庭ごみとして捨てることはできません。
専用容器かペットボトルなどに入れて蓋をし、ある程度たまったら病院や回収薬局などに持って行き廃棄してもらいましょう。 - 針以外の消毒綿やカートリッジなどは家庭ごみとして廃棄できます。
まとめ
食事療法、運動療法、飲み薬で血糖コントロールができない場合や、直ちに血糖値を下げる必要があるときにインスリン療法が行われます。
インスリン療法を始めるに当たっては、医師や看護師、薬剤師などから、製剤の目的・特徴、投与のタイミング、機器の使い方などについて詳しい説明があります。
わからないことや不安なことがある場合は、どんどん質問をしましょう。