「痩せホルモン」「長寿ホルモン」って聞いたことはありませんか?
テレビや雑誌など、様々なメディアで取り上げられることもあり、目にしたり、耳にしたりされた方もいらっしゃるかもしれません。
”痩せる”、”長寿”というキーワードは、心動かされる方、多いですよね。
この「アディポネクチン」、”痩せる”、”長寿”だけでなく、近年の研究で、2型糖尿病、動脈硬化・関係の深い疾患があると、血中の「アディポネクチン」の濃度が低いことがわかりました。
糖尿病など生活習慣病の観点からも注目のキーワードなんです。
目次
発見の歴史
これまで、ホルモンといえば内臓から分泌されると考えられていました。
しかし、1996年、大阪大学医学部の松澤佑次教授(当時)のグループによって、脂肪細胞からも分泌されていることが発見されました。
そして2003年に東京大学大学院医学研究科糖尿病・代謝内科の研究室によって、その物質が「ホルモン」であることが明らかにされました。
長寿や肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、がんなどと大きくかかわっているホルモン「アディポネクチン」。
世界中の医学界にとって大きな発見となり、様々な研究が行われています。
「アディポサイトカイン」の種類
脂肪細胞から分泌されるホルモンは「アディポネクチン」だけではありません。
脂肪細胞から分泌されるホルモンを総称して「アディポサイトカイン」といいます。
アディポサイトカインには、体によい働きをする「善玉」と、体に悪影響を及ぼす「悪玉」の2種類あり、これらが互いに制御し合いながら、糖・脂質代謝や血圧の恒常性を維持しています。
代表的な善玉アディポサイトカイン
アディポネクチン
インスリン抵抗性を改善し、血糖値や中性脂肪、血圧などを低下させる働きがあります。
また、傷ついた血管壁を修復し、動脈硬化を予防します。
レプチン
脳に直接作用して食欲を抑えたり、エネルギー消費を促したりするホルモン。
体脂肪量が増えるほどこのレプチンも増加することが知られており、肥満を防ぐ働きをします。また、インスリン感受性を高める作用や脂質低下作用があり、糖・脂質代謝の改善を促します。
しかし体脂肪が増えすぎると、脳がレプチンからのの命令に反応しにくくなる可能性があり、レプチンの濃度が上昇しても肥満を抑制できなくなってしまいます。
代表的な悪玉アディポサイトカイン
TNF-α(ティーエヌエフアルファ)
インスリンの働きを阻害したり、動脈硬化を促進したりする作用があります。
PAI-1(パイワン)
PAI-1は、血栓ができた時に、それをほぐす作用を持つプラスミンという物質を妨げる作用があり、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクを高めます。
内臓脂肪が蓄積すると、血中のPAI-1濃度が上がります。
超善玉「アディポネクチン」の主な働きとは?
「アディポネクチン」は、脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの一種で、超善玉ホルモン。
糖尿病をはじめ、生活習慣病の対策としても期待されるホルモンです。
どんな働きがあるのでしょうか?
主な働きを紹介します。
動脈硬化の抑制
加齢や食生活、生活習慣、ストレス、タバコなどで血管は常に傷つき、動脈硬化が起こります。
動脈硬化が進み、血管壁にコレステロールがプラークとして付着すると、血管を詰まりやすくし、脳卒中や心筋梗塞などを起こすリスクを高めます。命に関わる重大な状態です。
そこで登場するのが「アディポネクチン」。
アディポネクチンには、
- 血管内の傷を修復する働き
- 血管を拡張する働き
があります。
アディポネクチンがきちんと分泌されていれば、動脈硬化を予防・改善につながり、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病や脳卒中、心筋梗塞などのリスクを下げることができます。
インスリンの働きを高め、高血糖を抑制
インスリンは、私たちの体の中で唯一血糖値を下げてくれる働きを持っています。
その効果を高める働きがアディポネクチンにはあります。
インスリンがしっかり働けば、2型糖尿病の予防・改善につながります。
脂肪を燃焼させる働き
運動をすると、脂肪を分解する酵素「リパーゼ」が活性化され、体内の脂肪エネルギーとして消費されます。
また筋肉にある「AMPキナーゼ」も活性化され、糖の取り込みや脂肪酸の燃焼が促され、エネルギーとして活用されます。
体を動かすこと、運動をすることを推奨される一つには、酵素が活性化され、糖や脂肪が蓄積されるのを防いでくれるからです。
これに対しアディポネクチンは、運動をしなくても運動をしたのと同様に「AMPキナーゼ」を活性化する作用があることが報告されています。
さらに、運動は、細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させたり、長寿遺伝子を活性化させたりすることで、ミトコンドリアの合成を促してくれます。
これと同様の働きがアディポネクチンにもあり、ミトコンドリアの働きを高め、持久力を向上させてくれます。
つまり、アディポネクチンは、運動をしなくても運動をするのと同様の効果があり、運動をしていない時間であっても脂肪を燃焼しやすく、太りにくい体を作ってくれます。
アディポネクチンが多いと運動をしなくてもいいということではありません。
一日中、運動をしていることはできません。そういった時間はアディポネクチンが働いてくれるということです。
運動にはそれ以外にもたくさんの効果があります。積極的に体を動かしましょう。
2型糖尿病、肥満、動脈硬化・関係の深い病気があると、血中のアディポネクチン濃度が低いことがわかりました。
アディポネクチンが減ってしまうと、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧など、様々な生活習慣病を発症するリスクが高まります。
逆に分泌量が増えれば、予防・改善につながります。
アディポネクチンを増やすことが大事です。
太っている人が、ダイエットしないといけない理由とは?
太っている人は、様々な生活習慣病をはじめとする病気のリスクが上がるため、痩せるように言われます。
その要因の一つが、「アディポネクチン」にあると考えられます。
アディポネクチンというホルモンは、内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)があると減ってしまいます。
実際、肥満や2型糖尿病、動脈硬化などがある人の血中のアディポネクチン濃度は低く、それも内臓脂肪が多ければ多いほど分泌量が減ってしまうことがわかっています。
逆に、アディポネクチンの分泌量が増えれば、予防・改善につながります。
内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)の方は、生活習慣病のリスクを回避するため、痩せて、改善することが大切です。
BMI22を目標に、まずは今の体重を3%減らすところから始めましょう。
増やすには?
アディポネクチンの分泌を高めるためには、毎日の食事と運動が重要です。
ダイエットによる肥満解消
内臓脂肪が多ければ多いほどアディポネクチンの分泌量は逆に減少してしまいます。
内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)の方は、内臓脂肪量を減らしましょう。
うれしいことに皮下脂肪に比べ落としやすいのが内臓脂肪です。
無理なダイエットではなく、適量でバランスのとれた食事と適度な有酸素運動などを組み合わせ、正しいダイエット法で体重を減らしましょう。
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1日30分以上の有酸素運動
内臓脂肪を減らす、また増やさないためにも有酸素運動は欠かせません。
最も取り入れやすいのは、ウォーキング。
だたし、ぶらぶら歩いていては意味がありません。
運動効果を高めるには、息を切らさない程度の速足で歩くのがおすすめです。
アディポネクチンを増やす効果が期待できる食品
アディポネクチンは最近発見されたホルモンでまだわかっていないことが多いです。
その中で、アディポネクチンを増やす可能性があるといわれている食品を紹介します。
大豆製品
大豆たんぱく質の一種である「β-コングリシニン」に、アディポネクチンを増やす作用があるといわれています。
ラットを使った複数の研究によると、「β-コングリシニン」を与えたラットの血液中のアディポネクチン濃度が上昇し、インスリンに対する感受性が高まったという結果が得られています。
豆腐や納豆、高野豆腐など、大豆製品を積極的に食べるようにしましょう。
柑橘類
オレンジやシークヮーサーなどの柑橘系の果実に含まれている成分「ノビレチン」。
発がん抑制作用や抗炎症作用などがあることは知られていましたが、さらに近年の研究で、脂質や糖の代謝を調節する作用もあることがわかってきました。
肥満のマウスを使った研究では、ノビレチンを与えたマウスでは血中の中性脂肪が減り、アディポネクチン濃度が上昇するという結果が得らています。
コーヒー
コーヒーにもアディポネクチンを増やす作用があるといわれています。
ドイツで2型糖尿病の発症リスクが高い肥満者を対象に行われた臨床研究で、1ヶ月間にわたり1日に8杯(1杯:150ml)のブラックコーヒーを飲んでもらったところ、飲まない場合と比べ、血中アディポネクチン濃度が6%上昇するという結果が得られました。
また、日本人の若者を対象にした臨床研究で2週間1日に450mlのブラックコーヒーを飲んでもらったところ、血中アディポネクチン濃度が13.6%上昇したと報告されています。
ということで、コーヒーを飲む習慣を!と言いたいのですが、人によってはブラックコーヒーによって血糖値を上がてしまう体質の方がいます。糖尿病の方は、自己血糖測定器で血糖値を上げる体質でないかチェックしてください。
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DHA・EPA
アジやイワシ、サバ、サンマなど青魚に多く含まれDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)もアディポネクチンを増やすといわれています。
ハーバード大学公衆衛生学部の研究チームが臨床研究を行い、682人の被験者にオメガ3脂肪酸を含む魚油を摂取してもらい、641人には偽の薬としてオリーブ油やひまわり油などを摂取してもらったところ、魚油を摂取したグループでは、血中アディポネクチン濃度が0.37μg/ml増加する結果が得られました。
またオメガ3脂肪酸を含む魚油はサプリメントだけでなく、青魚で摂取する臨床試験も行われましたが、青魚だけを食べただけではアディポネクチンに対する効果は見られなかったそうです。
食事から摂るには量が足りていないのかも?
このことから、青魚を積極的に食べるとともに、サプリメントを活用されるのがいいかもしれません。
臨床試験では1日当たりDHAとEPAを合計で0.7~2g程度摂取していたそうなので、それが目安になるのではないでしょうか。
アマランサス
マグネシウムにも、アディポネクチンの分泌を助ける働きがあるといわれています。
マグネシウムが多く含まれる食品は、ごまや大豆製品、アーモンドなど。意識して食べるようにしましょう。
また最近注目のスーパーフードの中で、中南米原産の穀類「アマランサス」にも多くのマグネシウムを含んでいます。
アミノ酸スコアが高く、良質なたんぱく質、ビタミンE、ビタミンB群、食物繊維、鉄なども含まれる「アマランサス」。食べ方はいろいろありますが、中でも手軽なのがお米を炊くときに少量加える方法。とっても簡単なので、続けやすいです。
近い将来”薬”ができる!?
アディポネクチンがしっかり分泌されることで、
- 動脈硬化を抑制
- インスリンの働きを高め、高血糖を抑制
- 脂肪を燃焼させる働き
他にも、がん細胞が増殖するのを抑制する働きがあるのでは、ともいわれています。
アディポネクチンが結合し、その作用を細胞内に伝える分子を「アディポネクチン受容体」といいます。
アディポネクチンの分泌量が少なくても、この受容体が活性化できれば、2型糖尿病をはじめとする様々な病気の治療につながると考えられています。
東京大学の研究グループは、2型糖尿病の新しい内服薬の開発を目指し、614万種種類の化合物の中から、アディポネクチン受容体を活性化する物質「アディポロン(AdipoRon)」を発見!
2型糖尿病や肥満のマウスに経口投与したところ、インスリンが正しく作用するようになったり、血糖値が下がったり、脂肪が燃焼したりする効果が見られました。
現在、臨床応用に向けて研究が進められています。
近い将来、薬が開発されれば、多くの方の治療の一助になるのではないでしょうか。
薬が開発されるのが待ち遠しいです。
まとめ
脂肪細胞から分泌されるホルモンの一種「アディポネクチン」。
肥満や2型糖尿病、動脈硬化および関係の深い病気があると、血中のアディポネクチンが低いことがわかりました。
つまり、アディポネクチンが低いと、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧などの生活習慣病や、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞などを起こすリスクが高まってしまいます。
逆に、アディポネクチンが増えれば、予防・改善につながります。
アディポネクチンは内臓脂肪が多いと減少してしまいます。
内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)の方は、ダイエットをし、痩せましょう。
また、食事や運動も重要です。
アディポネクチンの分泌を増やす食べ物の摂取や運動を積極的に行いましょう。