三大合併症のひとつ、糖尿病性神経障害とは?

糖尿病神経障害は、様々な合併症の中で最もよくみられる症状であるとともに、最も早く現われる症状です。

糖尿病患者のうち、約3分の1に当たる人が何ならかの神経障害を経験するといわれています。

神経は、情報伝達の役目を果たし、脳、脳幹、脊髄を通る中枢神経系と、全身にわたる末梢神経系に分かれます。

このうち、糖尿病によって障害を起こすのは末梢神経系です。

目次

原因

神経細胞が正常に機能しなくなり、糖尿病神経障害が発症するといわれていますが、まだはっきりしていません。

一説によると、高血糖の状態が続くと、末梢神経機能維持に重要な役割を果たすシュワン細胞に障害の原因となるソルビトールという物質が蓄積し、神経線維に異常が生じるためといわれています。

また、血流が悪くなり、神経細胞に十分な栄養が行き渡らず、神経組織に障害が起こるためともいわれています。

主な症状

末梢神経障害

末梢神経は、体中にくまなく届いている神経で、脳の中枢からの指令を伝えたり、触感、温・冷感や痛みなどを感じたりする役目をもっています。

この神経が障害を受けると、それらの刺激を過敏に感じたり、逆に感じにくくなったりします。

また、外的な刺激がないのに痛みや冷え、痺れなどを感じることもあり、就寝中にこむら返りを起こす人なども珍しくありません。

  • 手足の痺れ・痛み
    手や足の先がしびれるような感じがする。また、手足が冷たく感じる。
  • こむら返り
    ふくらはぎの筋肉がつる。運動中よりもリラックスしている時や寝ているときに起こる。

末梢神経で特に注意が必要なのは、痛みの感覚の消失です。

糖尿病の合併症の中でも一番早く現れるのが神経障害です。神経障害が起こると痛みを感じなくなり、足に傷ができても痛みを感じないので気づかず放置してしまい悪化。最悪、壊疽し、切断しなければならなくなることがあります。糖尿病の方は、毎日の足のケアがとても大切です。

自律神経障害

自律神経は、消化器や心臓、排尿など、意思に関係なく、自立的に働く組織の活動を支配している神経です。

この神経系に障害が起こると、自立的に働く組織が相対的に機能低下を起こす恐れがあります。

  • 発汗異常
    それほど暑くなくても、局所的に汗をかいたり、逆に暑くても汗が出なくなる。
  • 起立性低血圧
    急に立ち上がったとき、脳の血圧調整がうまくいかず、立ちくらみやめまいが起こる。
  • 胃腸障害
    消化機能が低下し、吐き気やむかつき、食欲不振が起こる。
  • 膀胱障害
    膀胱に尿がたまっても尿意を感じず、尿が出なかったり、出ても残尿感がある。
  • 下痢・便秘
    自律神経の障害によって腸に悪影響が及び、下痢や便秘を起こる。

自律神経障害は、末梢神経障害に比べ、起きていることを自覚しにくいため注意が必要です。

運動神経障害

運動神経が障害を受けると、調和のとれた筋肉運動が阻害され、やがて筋力低下・筋肉萎縮という状態を招きます。

  • 顔面神経麻痺
    顔面を動かす神経が麻痺し、物がうまく食べられない、口元がゆがむ、よだれをたらすなどの症状が起こる。
  • 外眼筋麻痺
    目を動かす筋肉が麻痺し、寄り目になったりする。

末梢神経障害や自律神経障害に比べると、発症例はあまり多くありません。

検査

糖尿病神経障害の症状の多くは、自分でわかるものですが、中には無自覚性のものもあります。

そのため、必要に応じて、神経障害が起きていないかの検査(神経機能検査)が行われます。

検査の中で最もポピュラーなのが、膝蓋腱(しつがいけん)やアキレス腱の反射が正常かどうかを見る検査です。

この他、

  • 末梢神経機能検査
    運動神経伝達速度検査、感覚神経伝達速度検査、触角・痛覚・温覚検査、振動覚検査 など
  • 自律神経機能検査
    消化管運動や心臓血管系、膀胱機能などの異常を調べる各種検査 など

が、必要に応じて行われます。

治療

比較的軽症の場合は、血糖コントロールが改善されるのとともに、他の治療をしなくても症状は消えていきます。

しかし、症状が重かったり、症状が出ていた期間が長かったりすると、それだけでは治療が難しく、現われる症状も多様になります。

その場合は、薬物療法が行われます。

-主な薬-
・障害を受けている神経組織の再生を促す薬
・糖尿病合併症の発症・進行に関わるソルビトールの産生を抑えるアルドース還元酵素阻害薬
・血流を改善する血管拡張薬
・抗血小板薬
・鎮痛薬
・抗不整脈薬
・抗けいれん薬
・抗うつ薬

このほか、個々の症状を緩和するための薬が使われます。

症状が重く、いくつも現われているとなかなか治りにくいですが、治療が長引いてもあきらめず、根気強く治療を続けることが大切です。

まとめ

三大合併症のひとつ糖尿病性神経障害は、糖尿病の合併症の中で最も発症頻度が高い病気です。

神経は、体全体に張り巡らされているため、手足のしびれや痛み、立ちくらみ、胃腸障害など、全身に様々な症状が起こります。

初期であれば、血糖コントロールをきちんとすることで、進行を止め、症状をなくし、神経機能を回復させることも可能です。

しかし、進行し感覚が鈍化。傷を負ったことに気づかず、細菌に感染して細胞が壊死してしまうと、最悪の場合、切断といった事態になることもあります。

日々のチェックとケア、定期的な検査が大切です。